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平成21年7月4日 |
江戸中期の社会構造解明 |
「近世の空間構造と支配」 盛岡藩にみる地方知行制の世界 浪川健治編 |
盛岡藩は、近世中期において全国の8割の藩が、家臣による農民の直接支配を認める地方知行制を廃止し、藏米を支給する俸禄制に切り替えた中で、幕末まで地方知行制を維持し続けた数少ない藩である。 本書はその盛岡藩の実態を示す貴重な資料、元文三(1738)年「諸士知行所出物諸品並境書上」10冊(盛岡市中央公民館藏・欠本3冊)を筑波大の浪川健治氏が大学院生と共にその欠本部分を税務大学校所蔵本によって照合し、ほぼ9割の12冊を復元(1冊のみ欠本)、あらためて全面的な分析と研究を加え結果である。 次に本書の特色を挙げてみよう。 (1)この「書上」は藩命により816人の給人すべてが自分の知行の内容を申告したものである。貢租の形態(米、金・銭など)、境、自然環境(山林、河川の森林植生、産物、生息動物の様子など)、村内の藏入地、他の給人との入り会い状況、知行百姓の生産物や市場との関係など膨大な情報が盛り込まれている。 それを給人ごとの属人データ、村落ごとの属地データ、新田開発データの3種に整理し直し189ページにわたる精密な一覧表を作成した。今後は市町村の歴史的地域像や自然環境の復元に活用されることが期待されよう。 (2)前記(1)のデータを分析して6人の論文が作成された。特に浪川氏の「書上」成立をめぐる歴史的背景やその意義付けがゼミの共同研究の方向を示す。山下須美礼氏は給人の貢租形態の多様さは領内生産力の地域差によること、また給人と新田開発に注目した。 さらに清水克志氏の見事な地図化による藩領の多様な環境や生業の地域性、渡部圭一氏の「書上」に見られる「産物」認識の格差や所給人の商・農との重属性の指摘。加藤晴美氏の商品化の進行と山林荒廃の分析、吉村雅美氏の知行地支配の民俗学的考察など、若い研究者の新鮮な視覚から江戸中期の変容しつつある盛岡藩領の社会的講造を浮かび上がらせた。この大学院博士ゼミの在り方もーつのモデルとして高く評価できるであろう。 (加藤章・盛岡大顧問)(東洋書院,14700円) 「岩手日報」郷土の本棚 平成21年7月4日 【参考】 「諸士知行所出物諸品並境書上」改題 収載地頭名一覧 |